ネクタイの結び目につと手をふれて
大学の文化祭はサークルで模擬店することになった。
コスプレ・非日常な服装でやることが義務と言われ、なにを 着ようか悩み、友達に相談する。
「あっちゃんならTシャツにジーンズで非日常だよね」
おっしゃるとおりでござーい。
真のラフスタイルについての疑問を投げ掛けい、
そんなわたしです。
何を隠そうTシャツが似合わないんだからしょうがないよね。暑い日にフツーに学校に着ていっただけで友達から通りすがりにツッコまれるってなかなか無いよね。
ジーンズ持ってるの!?とか聞かれるのもよく考えたらおかしな話ですよ。うん。
でもね、Tシャツはまだ良いとして
ジーンズってどうも昔のアメリカの土木工事とかしてた人が着てたイメージしか持てないのよね。だから、乙女的にはきたくないなよね。うん。 まあそんなの言い訳アンド言いがかりに過ぎないけれど。
ワンピースが好きなだけです。
ワンピース番長目指してます。
わたし「コスプレ何にするか決めた?」
恋人「考えてないなあ、スーツじゃだめかな」
わたし「スーツは正装でしょ。だめだめ。」
スーツは正装?日常着でいいのよね?
ダメって勝手に言っちゃったけれど。
そういえばスーツ姿フェチ?って居ますよね。
スーツ着ると、世間一般的には男前度が上がりっぱなしみたいですね。わたしはそんなに萌えないけれど、恋人のにしか。
ただ、ネクタイ良いなあって思います。ああいうシンボル的なものが女性用スーツにもあればいいのにな。
この前何かの機会で恋人がスーツを着ていた。
ピシッと決めて髪も襟元も整えているわりには、よく見ると、ネクタイがずれている。
わたし「ネクタイずれているよ」
恋人「ほんと?直して」
そして恋人の首もとに手を伸ばす。
ネクタイの先っぽと首筋の裏部分を触れ、全体を右に動かしてずれを直す。
ネクタイの三角部分を首もとにきゅ、と近づける。
今ここで一思いにきつくしたら、彼はきっと死ぬのだろう。
最期にはどのような顔をするか何か言うのかその後わたしはどうなるのか。
今ここで一思いにさえすれば、
今後予定されていた二人の何もかもが変わる。
わたしがそんなことを考えているとはつゆ知らず、恋人はわたしに自身の首もとを預けている。
信頼とか安心とかそういうものからか、ここには確かな可能性をわたしに握りしめさせながら、身を投げている人がいる。
その瞬間、なぜか恋人が強くいとおしくなる。
もちろん首をしめるなんてしなかった。
わたしはそういう趣味は無いし、生きていてほしいから。
ただ、ただ、なんとなくだけれど
好きな人に自分の首をたやすく預けられるようなひとになりたいと、強く思った。
スーツは、正装でしょ。formal。
フォーマルのときにこそ、首をあなたに預けたいと思う。いっそ一思いに、なんてね。
〈ネクタイの結び目につと手をふれて続く時間の小さき区切り〉塚本諄