ピロートーク

やがて性愛

背中あわせで目覚めても

入社したての頃に文具一式を支給された。
ペンや定規、のり、はさみ、クリップとかと一緒に消しゴムと多機能ボールペンが入っていた。
消しゴムは普通のMONOのやつ。ボールペンは、シャーペンの他、赤黒青緑のボールペン機能がついているやつ。
赤黒青はよくあるけれど緑は珍しいなと思い、わたしは消しゴムを覆うカバーをずらして、ある時期 死ぬほど好きだった人の名前を書いた。

 

昔流行ったおまじない。
消しゴムに緑色のペンで好きな人の名前を書いて、そのまま使い切れたら両想いになるっていうやつ。
こんなおまじないをやるのは、本当に10年ぶりとかだった。当時は緑色のペンがなかなか見つからず(女児用文具コーナーに)苦労したものだった。
できるだけ早く使い切るために、意味も無く机の角にこすりつけて消しカスを生産したけれど、今はそんなことはしない。ていうかする暇がない。後輩の指導もあるし、任されることや残業時間が増えていて、恋する気持ちのみに捧げる時間は少なくとも業務時間中には無い。

でも、消しゴムはもうすぐ使い切る。わたしも強くなったなと思う。
おまじないの効果なのかかどうかは分からないけれど、消しゴムが小さくなったなと思い始めた頃から良い縁があって、愛するダーリン(固有名詞)と暮らし始めている。役所の手続きや契約等も、少し前に二人分完了した。

 

自分の暮らしが面白いことになってきたなと思う。なんか人生ゲームみたい。

今のやつを使い切ったら今度は誰の名前を書くかは決めていない。でもまあ適当にやるから、気にしないでいいよ。

 

<朝の陽に背中あわせで目覚めても抱き寄せられてふたたび眠る>中家菜津子