ピロートーク

やがて性愛

熱帯低気圧街を覆へり

先週末、人生初のパチンコに行った。
友人に一度パチンコをやってみたいんだよね、と雑談中に話したところ「おれに任せろ」と名乗り上げてくれたからだ。
「おれは一時パチスロで食っていこうと思ってたんだからおれについて来れば大丈夫」といやに自信満々で何か引っかかったけど、とにかく土曜日はやってきた。

都内の某駅前近くの繁華街ですることになったので、二人でデパートの中を通って駅の外に出て、パチンコ屋さんに向かう。デパートには友人が好きなキャラクターグッズが売ってた。友人は帽子を欲しがって、試着して鏡を見たり、緑色のが在庫があるかどうか店員さんに聞いたりしていた。「ここで待ってるから買っちゃいなよ」とわたしが言うと、「いや、パチンコで元手を増やしてから買う」と保留にしていた。

キャラコラボ売り場を抜けて、エスカレーターを降りて、食品フロアに着く。きれいな色の季節のケーキが売ってるのを見て「あのメロンのがおいしそう」「桃のやつもきれい」と話し合う。とにかくパチンコで勝ってケーキと帽子を買おう、と共に誓った。

パチンコ屋の前で記念撮影をして、お店に入る。北斗の拳の台に席を決めて千円札を入れると、コインが出てくる。コインを数枚ずつ入れると、目の前の画面の中でケンシロウや敵や仲間たちが会話したり、戦ったりする。わたしも友人も千円札が何枚も入れて、ケンシロウ達の動向やロールの動きの狙いを定めてみたけど、結果的にだめだった。

二人で台を離れてとぼとぼ歩く。出口の前にカウンタの棚には、チョコレートやタバコや小さな家電が飾ってあった。

「わたしたちチョコレートの一枚ももらえないの?」
「もらえない、帽子もケーキも買えない」
「なんせんえんも使ったのに?」
「いくら使っても当たらないともらうことはできない」
パチンコ屋の前でがっかりしたポーズで記念撮影をして、おとなしく駅へ向かった。

 

「こんなことなら先に帽子を買っておけばよかった」「ケーキ食べたかった」と、二人でたくさん後悔した。
おかしのまちおかがあったので、ケーキのかわりに安いおやつを買うことにする。二人で500円以内を目安として、プロ野球チップス、ぺろぺろチョコ、チョコバー、ねるねるねるねを買った。食べる場所を探しているうちに雨足が強くなってきて、わたし達は、ラブホテル街を目前とした高架下で立ちながらおやつを食べた。ぺろぺろチョコは友人に、ねるねるねるねはわたしが持ち帰ることになった。

台風が来てるっていうからもう帰ろう。駅へ向かう。お互い懐がさむかった。もっと儲かると思ってたとわたしが呟くと「でもあっちゃんはビギナーズラックが出なくてよかったよ 出たらはまってしまったかもしれないよ」と慰めてくれた。
「一度良い思いするとね、それまでスったこと忘れちゃうんだよ。おれはパチスロやめるのに8年かかったよ」
「ビギナーズラックでいいから当たって欲しかった」
「これでいいんだよ」
「これでよかったの」
「これでいいんだ」

これで良い、これで良かったんだ。そう自分に言い聞かせながら家に帰った。悔しい反面、でもこれで20年後、わたしに娘や息子が居た時に「お母さんも若いころはパチンコしたこととかあるけどね」みたいに悪ぶることが出来てかっこいいなと思った。

 

<黄昏の樹々に小鳥の群れ止まず熱帯低気圧街を覆へり>栗木京子