ピロートーク

やがて性愛

俺のように生きてみせろと

 

美味しい美味しいとムシャパク食べていたら「作り甲斐がないなあ」と言われた。気持ちは分かるが何だその言いぐさは。わたしに彦摩呂になれとでも?出された食事には2センテンス以上のコメントしないと死後神の裁きにあうとでも?と、可愛げゼロな悪態をつく。だって普通に超おいしい。

 


てなわけで繊細なコメントを食事に向けることがとても苦手。
「うまみハイパー」「マグロぐらい美味しい」「お土産に持って帰りたい」といった『気の抜けた食レポ(友人Iによる命名)』をいつもしている。
だから、おにぎり、サンドイッチ、丼ものといったメニューには心から感謝をしている。これらは「おいしい」の一言で済み、コメントを多く残すことが野暮にすら見える。もし、コメントを求められたら、その場に合わせた方を褒めればいい。(例えば、新潟で食べるおにぎりは「お米がおいしい」と、北海道で食べる鮭おにぎりは「やっぱり北海道の鮭は一味違う」のように)

 


それはそうと、会社の近くに「てんや」がある。
「てんや」の前には、シーズンごとに大きなメニューポスターが2枚貼られている。
今(2016年7月20日現在)は「活〆穴子と海老・めごちの夏天丼」「ポークロース生姜だれ天丼」。ポスターを見るたびに(めごちって、どんな魚なんだろう、おいしそう。)(穴子いいなあ、食べたいなあ)と思う。
でも、いざ、店内に入るとわたしは「ポークロース生姜だれ天丼」を頼んでしまう。今に始まったことじゃない。ローストビーフ天丼ハンバーグ天丼チーズソースがけとり天丼。各シーズンごとの邪道天丼をわたしは一度ずつ食べてきた。ていうか「てんや」で普通の天丼を食べたことが無い。


邪道天丼の長所は美味しさが分かりやすくてノーストレスでムシャパクペロリと食べ終えられるところだ。そりゃそうだ、わざわざ天ぷらにしなくても美味しいものばかりだし、安いし、一人で食べているんだから食レポやコメントを求められることもない。短所は一つも無い。むしろ、短所はわたしだ。無意識の内に分かりやすさを求めて、基本天丼は頼まずに邪道天丼ばかり食べているってわたしは、なんか、糞ダサい。

 

わたしは何から逃げて誰の目を気にして天丼を食べているんだろう。何とたたかっているつもりなんだろう。複雑な料理は複雑な料理なりに、単純な料理は単純な料理なりにおいしい。恐れることは無い。おいしい、それだけで良いはずだ。敵は自分だ。おいしいをためらうな。自分の味覚を信じろとは言わないけれど、デリシャスオーライ。逃げたなりに戦え、楽しめ。生きる。

 

<もう二度と振り返らざる背が叫ぶ俺のように生きてみせろと>道浦母都子