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ピロートーク

やがて性愛

あなたとはほんとうに家族になりたかったんだよ

愛だの恋だの 音楽を少々

実はマッキーファンということを今更知ったので、「もう恋なんてしないなんて言わないよ絶対、って要するにどういうこと?」と聞いた。「おまえ、俺がマッキーファンだと知って最初に聞くことってそれなわけ?」と少し呆れられた。相手の気持ちは分かる。あと、わたしを「おまえ」と呼ぶこの人を見たのは初めてだったので、少し驚いた。

「もう恋なんてしない」なんて「言わない」なんだから、これからまた恋をしていこうっていう意志があるってことだよ、と教わった。わたしはわたしでマッキーに悪態をつく。

「だったら最初からそう言えばいいのに。もったいぶって、嫌な奴だ。だいたい、タイトルが悪い。説明が足りんね説明が。言わなくても分かる、なんて考え方は傲慢だ。」
「マッキーを悪く言うんじゃないよ」
「何よわたしじゃなくってマッキーの肩を持つんだ」
「そうじゃないけれど」
「もう恋なんてしないなんて?」
「言わないよ絶対」

 


悪態をつくときは徹底的に、悪口は歯切れよく。下手に優しさなんて出さずにためらわず。
本当はマッキーは好印象を持っているけれど、わたしはこの「自分ルール」を意識的に守った。

今こそこうして楽しくマッキートークをしているけれど、実はさっきまでマジトーンで別れ話をしていた。
それをなんとか持ちこたえさせて、何とか話を変えようとした結果がこのザマ。おまえ、なんて言われちゃって、互いに互いの優位性をちらつかせながら楽しい夜のお散歩。前に読んだ小説の中で恋愛のことをこう書かれていたことを思い出した。

 

でも、甘くみあわないで、どうやってひとは愛しあえるだろう。許しあって、油断しあって、ほんのすこしばかり見くだしあって、ひとは初めて愛しあえるんじゃないだろうか。

 

この小説を初めて読んだのは、中学生の頃だったからいまいち感覚が分からなかったけれど、今ならわかる。
ほんのすこしだけ甘く見くだしてこの程度の男だと油断して、分かったふりをして、ここまでこうしてやってきていたわたしがここに居た。その結果が、さっきの寸前で切り上げた別れ話。どうにかこうにか、いくつかの条件付きでやり直すことになったけれど、こんなところまで来てしまっていた。
わたしはその人が好きで好きでたまらないのだけれど、もっと甘く見て許して油断して見くだして、わたしなりの幸せをその人抜きでも手に入れられるように頑張ることに決めた。これは、わたし一人の小さな決意。その人とこれから本当に愛しあうための、寂しい決意。

「と言いつつもわたしその曲サビしか知らないのよ」
「まあそういう人が多いよね」
「もし君にーひとつだけー強がりを言えるのならー」
「もう恋なんてしないなんてー言わないよぜったーいー」


夜の渋谷区にマッキーの歌詞が響く。
「もう恋なんてしないの?」と聞くと、その人は無言になってしまった。わたしが居なくなった後のこの人のことを考えると、案外大丈夫だろうって想像がつく。でも、それでも少しかわいそうに思った。安心して、わたしも同じだよ、いつかまた別の人をきっと好きになれるから。だから大丈夫だよ。

その日はきちんと家に帰った。ふと検索して、そこで歌詞の全てを初めて知った。わたしは、ほんの少しだけ泣いた。

 

<ずっととけない氷がほしい あなたとはほんとうに家族になりたかったんだよ>田丸まひる