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ピロートーク

やがて性愛

女らは薔薇の香をかいでいる

考え事 思い出話

高校2年生のある時期、わたしのグループは家庭科室掃除を担当していた。
(グループといっても、名前の順で同じあたりの人たち御一行だけれど)


掃除中は、家庭科の若い女の先生と、わたしのクラスの副担任の若い男の先生が見張っていたけれど、女子校らしく朗らかに和やかに毎日掃除をした。

場所が家庭科室なため、学校内でどこかのクラスが家庭科の調理実習の授業があった日には、いつもより散らかっていたり、たたむ布巾の量が多いことがあった。

その日は、他のクラスに調理実習があったようで、わたしたちは洗濯されたばかりの布巾を物干し竿にいくつも並べて干した。
他のみんなは、洗濯機から出たばかりの布巾をそのまま干すところを、わたしは一度パンパンと打ってシワを伸ばしてから干した。
こうしたほうが、シワがなく干せると、お母さんから教わっていたからだ。


パンパンと打ち、干すわたしを見て、男の先生は嫌みのない形で目を向け、ニヤリと口角を上げた。
「君は、普段から家の手伝いをよくしてるね?」そう聞かれた。
恥ずかしい話だけれど、わたしは、家事をほとんどしてない。お母さんに全部任せっきりだ。
やり方はある程度知ってるけれど、本当にそれだけだった。

何もしてませんと答えるのもなんなので「はあ、まあそこそこに」と適当に返事をした。
先生は、わたしが普通に干さなかったのを見て、見抜いたつもりになって嬉しいんだろうなと思った。
女の人の、本性の部分を見抜けたと思ってるんだろう。
他の子より、家事慣れしてる、家庭的だってわたしの印象は上がったんだろう。


何もしてないのに。


先生のことを、かわいそうとか哀れとかはちっとも思わなかった。
けれども、わたしはその時「男の人から好印象持たれるなんて案外簡単なんだな」と思った。
なーんにもしてなくても、知ったかぶってでも、ちょっと行動をすればそれが全部なんだと思った。
そして、男の人はその全部を、自分は分かってる、って思うことに喜びや優越感を感じるのだと思った。


ぶりっ子しろってことではないけれど、ぶりっ子って、いわゆる駆け引きというよりも、騙す騙される行為への寛容性を問うものだと思います。
こーんな演技に騙されて喜んでるようなそんなあなたが好き、ってのもわりといいかも。

ではまた。

 

〈赤ん坊の食事のように目を閉じて女らは薔薇の香をかいでいる〉早川志織