ピロートーク

やがて性愛

君も君も君も死ぬなよ

はしかもおたふくかぜも水ぼうそうもかかったことない。ちなみに骨折も盲腸もりんご病手足口病も経験無い。母からは「ああいう子どものうちにかかっておく病気に、おまえがこの年になってかかったら…死ぬわよ」と、なんか細木和子みたいなこと言われている。でもかかったことないんだからしょうがないじゃん、とも思う。

インフルエンザもかかったことが無い。高熱でうなされたことは何度かあるけど、どれもインフルじゃ無かった。インフルエンザ経験者の知人に「やっぱり普通の高熱とは違うの?うなされながら『これはインフルの方だ』って分かるものなの?」と聞いたら「わかるもんだよ、あつこも一度かかってみるといいよ」と言われた。かかりたくない。わたしがかかったときに看病する気もないのにそんなこと言うのはやめて。そう言うと「看病はできないけど、食事はウーバーイーツで頼んでおくよ」と言ってくれた。その手があったかと思ったけれど、なんだか切ない。おおむね健康に生きてきたけれど、牡蠣にあたったことならある。あれはつらかった。

 

一昨年の10月のこと、お昼におしゃれレストランでカキフライ定食を頼んだ。その日は忙しい日だったから「午後からのエネルギー!」として奮発したのだった。午後、一生懸命働いた。昼食から約12時間後の夜寝る前、腹痛がやってきた。トイレにこもる。ひぃひぃ言いながら嘔吐と下痢を繰り返した。

誰か助けて、と思うのと同じスピードで「上は大水、下は大火事これなーんだ」というなぞなぞを思い出した。答えはお風呂じゃない、わたしだ。死んじゃうよう。死んじゃうよう。このままじゃ死んじゃうよう。誰か助けてよう。
泣きながら「牡蠣 あたる 対策」「牡蠣 死亡」「牡蠣 あたったとき」などで検索するも要するに「牡蠣にあたって腹痛の時はとにかく体内から出すこと、薬を飲んじゃいけないよ」しか書かれていなかったから、耐えるのみだった。なんかわかんないけどポカリとか飲んだ方がいい気がする、と思い、ちょっと体調が落ち着いた際に急いで且つゆっくりとした足取りで自販機まで買いに行き、すぐトイレにもどり、飲んだり吐いたり、飲んだりしゃがみこんだりした。朝方までにはなんとか出し切れたみたいで、一応会社に行った。

 

その後しばらくは牡蠣断ちをした。カキフライもオイスターバーも我慢、オイスターソースすら使うのをやめて、2ヵ月後くらいに牡蠣克服パーティーを友人とした。どきどきしながらカキフライカレーを食べた。

これが一昨年の話だから、その後何回か体調をくずしている。ウィルス性の風邪をひいたり、生理痛でぶっ倒れたり、ストレスで吐いたり。頭痛で早退したこともある。でも、多分基本的に健康なんだと思う。

ウーバーイーツのお店の中におかゆうどん屋さんってあるのだろうか。水ぼうそうおたふく風邪になったときはその友人を頼らねばならないから、見捨てられないように今後も良い関係を保ち続けたい。
ちなみにおしゃれレストランはその後しばらくして閉店した。いい気味だと思ってる。

 

<君も君も君も死ぬなよ蒼ざめし頬浮かびくる闇に叫びぬ>道浦母都子