思えば遠き春のこと
昨年2月に祖父が亡くなり、4月には四十九日が行われた。喪服を着て新幹線で新大阪へ向かった。法要は夕方前には終わったが、父母は実家の片づけや引き出物の準備等があるとのことなので、わたしと兄の二人で先に東京へ戻ることになった。
その時期、ニュースで森友学園の小学校や幼稚園の問題が取り上げられていた。それらの学校は、わたしの実家から行ける場所にあるため、タクシーで新大阪駅へ向かう際に、少し遠回りをして見に行くことにした。野次馬根性だ。
タクシーをつかまえて、運転手のおっちゃんに「豊中市の野田町にある野田中央第二公園のあたりまで」と地名で頼むと、運転手さんは場所が分からないと言った。「じゃああの森友学園のあの赤い小学校に行きたいんですけど…」と頼むと大体わかってくれた。細かなナビは兄がGoogleマップを見ながら指示を出した。運転手さんは「野田町にあるのは知ってたけど実際に行くのは初めて」と言っていた。
赤い小学校はなかなかしゃれていて立派だった。テレビカメラは来ておらず、学校前の公園では子供たち元気よく遊んでいた。
運転手さんには、待っていてもらい、わたし達はタクシーを出て、写真を撮った。ひとしきり撮り終えて後ろを振り返ると、運転手さんもタクシーを出て小学校の写真を撮っていた。
タクシーにまた乗り込み、今度は大阪市の淀川区にある塚本幼稚園に連れて行ってほしいと頼むと、運転手さんに「失礼ですけど、あんたら新聞記者か何かですか?」と聞かれた。「ただの観光中の兄妹です」と答えた。全部事実なのだが、それにしても怪しすぎる喪服姿の二人だっただろう。
塚本幼稚園は、町の風景になじんだ目立たない幼稚園だった。窓越しからぬいぐるみやカラフルな掲示物の影が分かるが、門が閉じているからよく見えない。わたしと兄は記念写真を撮り、ダブルピースをしてふざけたりした。幼稚園を少し回り込んで覗いてみると、柵の向こうに送迎バスが見えた。送迎バスはネコの形をしていて、調べたところ、クラクションの代わりに「ニャー」と鳴くらしい。超可愛くて乗りたくてしょうがなかった。
「いやー 良い幼稚園だ 素晴らしいなこりゃ」「教育に適した素晴らしい環境ですね」とわたし達は話し合い、やっと新大阪駅へ向かった。
新大阪駅へ向かう間、運転手さんは安倍総理の悪口や政治への不満をわたし達に語った。関西弁で喋るから、リズムがあってなんとなく面白おかしく聞こえた。
その後、籠池夫妻が逮捕されたときは思わず「逮捕されちゃったね」「他人事とは思えないよな」と話した。最近、またニュースでこの話題が再熱して、なんか凄いことになっている。
わたしが政治や国のカネや 問題についてどう思うかは置いておいて、そのニュースを見るたびに「ああ あの幼稚園と小学校…」と、まるで母校のように懐かしさとニャーと鳴く送迎バスへの恋しさが募るのだ。
<今にして思えば遠き春のこと望まずおりし日々を差し引く>山田消児