ピロートーク

やがて性愛

スピッツの美しい歌詞10選(⑥~⑩)

 

 

①~⑤の続きぞな もし

 

 

atsukohaaaan.hatenablog.com

 

 


「ぬるい海に溶ける月 からまるタコの足 言葉より確実に俺を生かす」さわって・変わって

 

ちょっとスピッツに詳しい人なら、スピッツのテーマは「死とセックス」というのはなんとなく耳にしたこともあると思う。
彼らの歌は、手をつなぐだけでドキドキするような青春ソングばかりではいつも足りなくて、肉体へ欲求と“触れる”ことへの欲望が尽きない。

青春物の恋愛漫画なら、最終回でセックスを行うだろうが
「やっとひとつわかりあえたそんな気がしていた/おっぱい」とセックスは分かり合うための通過点でしかなく、
したところで、一つしかまだ分かり合えていないということを歌うし、
「触れ合うことからはじめる 輝く何かを追いかける/リコリス」まず触れ合ってから、何かが始まるとさえ言っている。

ぬるい海に溶ける月からまるタコの足。声に出してみると“る”の繰り返しが効いていてリズムが凄く良い。
この歌はとにかくリズムがすごい。(「天神駅の改札口で君のよれた笑顔」と一緒に一度声に出して音読をしてみてほしい)
いまにもとろけだしそうな歌詞からはエロスが見られ、場面が想像できる。(てゆーかタイトルが『さわって・変わって』なところでお察し)
「優しい風二人を包め」と、この歌は締められている。
さわって・変わって・やっとひとつわかりあえて、ここからスタートなのだ。
言葉よりも確かなそれらが生きるエネルギーになっている。いいぞ、一貫しているぞ。かっこいいぞ、スピッツ


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「だから眠りにつくまではそばにいて欲しいだけさ 見てない時は自由でいい」さらさら

 

ラブソングはIとYouのワールドに対して、様々な角度から、恋の喜びや会いたさや切なさを歌う。それらと比較するとスピッツのラブソングがラブソングらしくないのに、らし過ぎるように感じてしまうのは以下具体例を見て頂ければよく分かる。

「君の心の中に棲むムカデにかみつかれた日ひからびかけていた僕の明日が見えた気がした/流れ星」
「猫になりたい 君の腕の中 寂しい夜が終わるまでそこにいたいよ/猫になりたい」
「君を不幸にできるのは宇宙でただ一人だけ/8823」
「甘えたい 君の手で もみくちゃに乱されて 新しい生き物になりたい/甘ったれクリーチャー」

…たぶん変態だと思う。それはさておき。
『さらさら』の中には水のモチーフがちりばめられていて、そんな匂いが部屋にまで満ちてきて、窒息のような息苦しさまで感じる。
自分はYouの自由を制限すること等は出来ないし、自分にとってYouは世界の全てだったとしても、Youにとったら自分はYou世界の一部にしか過ぎないかもしれないことを、分かっているつもり。これは、凄い歌詞だと思う。I&You,You&ワールド/I。関係代名詞の構文みたいな世界観で、これまでのスピッツに無かった視点だと言えよう。
だから、精いっぱいのわがままの「眠りにつくまで」と言われてしまうと。わたし達は互いに切なくなってしまう。2人のワールドは、どうしても構文のようには割り切れない。


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「雲間からこぼれ落ちてく神様たちが見える 心の糸が切れるほど強く抱きしめたなら」愛のことば

 

歌全体はPV同様にセピアのイメージ。全体的に不穏な雰囲気が流れていてセカイ系と言っても問題ないだろう。

『さらさら』なら関係代名詞の世界で、『空も飛べるはず』の「ゴミできらめく世界が僕たちを拒んでも~」ならI&YouVSワールドだけれど、ここの二人は脱け出そうとする。ワールドからの脱却といったところだ。

「限りある未来を搾り取る日々」「煙の中」「青い血」「違う命」と不安定な単語が運命のように追いかけてくるなかで、上掲の歌詞が来る。ここが、この歌の一番の“救い”だ。

雲間からこぼれ落ちてく神様たちというのは、本当の終末がやってくる前兆かもしれないが、あまりに大きな何かや美しい光景を目の前にすると、圧倒されて、これまで感じてた不安などが消えてしまうような感じ。そのような救いが、ここにある。

逃げ出して、逃げ出して、逃げ出して、何があるのだろうか。そもそもこの道は正しいのかどうか。わたしにも誰にも分からない。風は依然生ぬるいままで、どんな未来が来るのかも分からない。それでもあの時に見た「雲間からこぼれ落ちてく神様たち」という圧倒的な救いの光が何より確かで「愛のことば」を探す二人の強さになっている。たった一文やそこらで、それまでの不穏な歌詞すべてを塗り替えてしまうような、そんな強い力が、この歌詞にはある。本当に、凄い。

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「切れた電球を今 取り替えれば明るく 桃の唇 初めて色になる」桃

 

最近、歌詞がポジティブになってきている。

「めずらしい生き方でもいいよ 誰にもまねできないような」ルキンフォー
「理想の世界じゃないけど大丈夫そうなんで」君は太陽
「純情そうなそぶりで生きのびてきたから 裏切られた分だけ土をはね上げて 叫ぶ 笑う マネだっていいのさ 傷の記憶は「まあいっか」じゃ済まんけど」野生のポルカ

自分の異質さがこの世界で浮くことがたえられなくて、これまでだったら逃げ出そうとしていたけれど、「浮いて浮いて浮きまくる 覚悟」がやっと歌詞の中にも表出されてきた。(やっとかよ…)
(「見えない場所で作られた波に削りとられていく命が混沌の色に憧れ完全に違う形で消えかけた獣の道を歩いて行く/歩き出せ、クローバー」
「歪みを消された病んだ地獄の街を 切れそうなロープでやっと逃げ出す夜明け/インディゴ地平線」なんてヒリヒリしていた時代もあった)

その中でも『桃』の冒頭は特出している。電球を替えるというなんてことのないこの行動は、この場でこれからも暮らしていくということだ。こんな暮らしが、日常に色を与えていき、甘い香りで満たしていく。
「ありがちなドラマをなぞっていただけ」「あの日々にはもう二度と戻れない」ということは分かっている。自分は変わらないし変われない、人に迎合なんて出来ない。だけど今いる世界が大切で、そこで幸福を追い求めていっている。前向き。えらい!

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「ゆううつな迷い子をなでるように風は吹き抜けてく旅の途中」旅の途中

 

自分たちのやってきたことと旅が重なる一曲。スピッツはこの曲が作られた当時、結成15年なのだ。
これがアルバムの中の最後の曲ではなく、『けもの道』の前だというところも個人的にはしびれる。
坂道をかけのぼってきたけれど、旅はまだ終わらない。どこまで行くのか行けるのか分からない。孤独を抱えながら、小さな思い出を拾い集めながらここまれやってきた。そんな時に、風が吹き抜けていく。すると、なんだかまだ行ける気がしてきた。そんなささやかな自信がこの歌の根底にある。この自信というのは「15年やってこれたこと」と言っても良いだろう。

同じようなことを、『自転車』でも歌っているが、詩の表現としては『旅の途中』が圧倒的に勝っている。

スピッツの3大旅ソングといえば『旅の途中』と『旅人』『僕はきっと旅に出る』だろう。
旅に出ようという意気込みがいまいち後ろ向きな『旅人』もスピッツらしさ溢れる名曲だけれど、特筆すべき歌詞は、『僕はきっと旅に出る』のここだろう。

「きらめいた街の境目にある廃墟の中から外を眺めてた 神様じゃなくたまたまじゃなくはばたくことを許されたら」

後ろ向きな旅への出たさでも無く、旅の途中の心細さでもなく、「どうか旅に出させて下さい」と祈るような気持ち。この部分を初めて聞いたとき、わたしは「スピッツよ、強くなったな…(でもこいつはきっと旅に出れんだろうな…)」という気持ちなった。

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以上10曲、選出期間2週間弱。苦労した。
他にもいい曲良い歌詞たくさんあったが、あえて選べなかったものは以下の通り。


・そして君はすぐ歩きはじめるだろう 放たれた魂で 月のライトが涙でとびちる夜に
・誰彼すき間を抜けておかしな秘密の場所へ
・言葉はやがて恋の邪魔をしてそれぞれ鍵を100個もつけた
・流された毒さえも甘い味がする 安上がりな幸でも今なら死ねる
・「あなたのことを深く愛せるかしら」
・風が吹いて飛ばされそうな軽いタマシイで他人と同じような幸せを信じていたのに/ 聞こえる?
・それは謎の指輪
・愛されることを知らないまっすぐな犬になりたい
・砕けるその時は君の名前だけを呼ぶよ
・すぐに飛べそうな気がした背中 夢から醒めない翼
・波打ち際に書いた言葉は永久に輝くまがい物
・この坂道もそろそろピークでバカらしい嘘も消え去りそうです
・ありがちな覚悟は嘘だった 冷たい夕陽に照らされてのびる影
・波は押し寄せる終わることもなく でも逃げたりしないと笑える
・間違ったっていいのにほら こだわりが過ぎて 君がコケないように僕は祈るのだ
・半端にマニアな寒村で初めてなめた蜜の味 知っちゃったんなら頑張れそうです