ピロートーク

やがて性愛

饒舌をときにたしかな証とも

昼過ぎからのデートだったから早起きする必要がなかった。のんびりと起きて、作り置きしていたカレーをブランチとして食べて、食後にはコーヒーを飲んだ。わたしはカレーもコーヒーも大好きで、三食どころか四日間ぐらいこの組み合わせでも構わないぐらいだ。カレーとコーヒーってなんでこんなに合うんだろうとしみじみ感動をし、カレーもコーヒーも、外国から輸入したもので出来てるだろうから、日本が鎖国をしてない現代に感謝をする。江戸時代の人に会ったらまずこれを自慢するだろうなと思う。

お皿も洗って、洗濯物もとりこんで、素晴らしい段取で家を出た。電車で20分先の、大きな駅で待ち合わせをして、楽しいデートのはじまり。喫茶店でおしゃべりをした。

相手が午前中仕事でお昼食べる暇もなかったから軽食メニュー頼んでいいかと聞かれたからもちろんOKを出す。

「あっちゃんはお昼食べてきたの?何食べたの?」
「カレーとコーヒーだよ」
「そっか」

わたしはカレーとコーヒーのマッチングの素晴らしさを語りたくなった。

「あのね」

はだしのゲンがあるでしょう。わたし、あれ大好きなんだけど。ゲンにはお兄ちゃんが二人いて、長男は浩二あんちゃん、二男が昭あんちゃんで、ゲンは三男なんだよ。それでね、浩二あんちゃんは最終的に技術者になって、昭あんちゃんは商人になるのよ。それでね、昭あんちゃんが商人になるために広島を出て商人の都大阪に行くぞっていう決意を兄弟達に話す場面があるのね。そこで、ピカで、あ、ピカってのは原爆のことね、ピカで亡くなったお父ちゃんの言ってた言葉を引用して話すのよ。」

(以下原文ママ
「資源のない日本は世界中の国の人と本当に心からなかよくして貿易で生きるしか道がないんじゃ
武力でよその国の資源を奪いとるとかならず武力でやりかえされ数えきれん多くの人間が戦争で死んでいくんじゃ
戦争はよくばりの自分さえよければええと思うとる死の商人がしかけるんじゃ…」

あつこ「こんな言葉を昭あんちゃんは引用して、自分は平和を売る商人になるんじゃって決意を語って、大阪へ行くのね。まあはだしのゲンのお話はまだ続くんだけどここでとりあえず置いておいて」

「だからカレーとコーヒーがおいしく食べられるってのは平和ってことだし、日本が外国と貿易をして、武器とかじゃなくておいしいものを売買して幸せになれてわたしは嬉しいなって思ったの。これでおしまい。」


ここまで一息で話したら彼から「まさかここでおしまいとは」と驚かれたけど、本当にこれでおしまい。おやすみなさい。

 

<饒舌をときにたしかな証ともわれらは若く恥多く生く>今野寿美