ピロートーク

やがて性愛

ひとり獣の死ぬるより

わたし、誰とも結婚しないで子どもも居なくて身寄りも無くなったら、郊外の田舎の町に住みたい。それで、狭くていいから庭のあるおうちに住むの。それで、猫か犬をたくさん飼うの。放し飼いだし、去勢やワクチンとか、一切しない無責任な飼い方。トイレトレーニングなんて絶対にしないし、餌やりも煩雑に行う。

そんなぐちゃぐちゃの家に住んでるから異臭なんかも発しちゃって、近所の人から疎まれるのよ。「あの家のおばあさんと関わっちゃいけません」みたいな。でも、小学生の悪ガキなんかは、少し離れたところから「猫ババアが来たぞーーーーー」「やーーいやーーーい猫ババアーーーーー」とかリズムつけて歌ってくる。

汚え臭え猫ババア(犬ババアでも可)のわたしは「うるさいねっあたしゃガキが大っ嫌いなんだよ!!!!」とか叫んで杖振り回すから、すぐ横で寝ていた猫もびっくりして起きて何匹かは走り出す。そうやってそうやって、益々孤立を深めて、誰からも惜しまれずに死ぬ。

 

 

それがわたしの夢だ、と言うと、「いいね」と言ってもらえた。

 

 

実際に自分の家のお隣さんであったら大迷惑だけれど、わたしは「ゴミ屋敷」というものが大好きで、テレビで『ご近所トラブル特集』みたいな夕方の報道番組が始まると食い入るように見入ってしまう。汚い毛布に、壊れた自転車、お鍋に入ったままの料理、何年も前の古新聞。家の中も外も判別出来ないほどに、壁となって、生活スペースを陣取るゴミ。あんなにばっちくて異臭を発するものなのに、業者の人が捨てようとすると「それは大切なものなんだ」と怒り出す家人。迷惑だ。迷惑極まりない。

でも、あの家に住んでる人たちからしたら、大切なお気に入りの物に囲まれて暮らしているんだろう。それをゴミだと言われたらそりゃ怒るのも無理はないし、勝手に処分されたら更なるトラブルを引き起こしかねないというのもよく分かる。どんな事や物にしたって、相手の気持ちに立って考えて、せめて「話の分かる奴」でありたいとわたしは思う。

 

 

そして、わたしはその手の住人達が心底羨ましい。わたしも好きなものに囲まれて、他人に入り込ませない自分のワールドの住民になりたい。社会性がわたしのロマンの邪魔をして、ワールドに浸ることを許してくれない。

 

お菓子の家やゴミ屋敷とまではいかなくても、好きな人や好きなものだけと関わって生きていきたいだけなのにね、社会性があるのもつらいものよね、と家の猫を抱き上げると皮膚に爪を立てられた。猫ババアには向いていない?

『ウルサイ子だね、猫は猫らしくニャァニャァしてればいいんだよッ』

杖を振り回しはしないけれど、言葉だけは威勢の良い、内弁慶猫ババアワールドを、一人楽しむ。

 

<山奥にひとり獣の死ぬるよりさびしからずや恋終りゆく>若山牧水