ピロートーク

やがて性愛

にんげんの世なのでこんなに

「お化けより本当に怖いのは人間」みたいな発言をよく聞くけれど、わたしとしてはお化けの方がマジで怖い。だって、人間相手ならたとえば地の果てまで逃げたり警察に相談したり監獄行覚悟で相手を殺すとかの対策が練られるけれど、お化けはそうはいかない。物理的社会的に逃げても、お化けは問答無用で追いかけてくる。お化けが超こわい。

でも、幸運なことにわたしには霊感がちっともない。電車で横に座ってきた人の足が無くても、顔の無い男に付け回されても、すりガラスの向こうに髪の長い女のシルエットがあっても多分気づかないだろう。そんな自分のことは結構好きだ。

 

 

 

怪談好きの仲良しの先輩がいる。しょっちゅう一緒に遊んでおり、展覧会に行ったりお茶したりお祭りや古本屋や寄席に行ったり、互いにおすすめの本や漫画を貸し合う仲だ。先輩はわたしのことを「あつこ」「あっちゃん」等ではなく「あつ子」と呼ぶ。

 

そして先輩はわたしにやたらと怪談の本を貸してくる。「僕が怖いと思ったやつに付箋つけておいたから。あつ子も照らし合わせてみ」と有無を言わせない。

わたしもわたしで借りた本を律儀に読んでは、どのストーリーが良かったかメモしては報告をする。その先輩は怪談を話すのも好きで、喋りもなかなか上手い。でもわたしは上記のとおり怖がりなため「超面白いけれど本気で怖いから最後は爆発オチにしてくれ」と事前に頼んでいる。先輩は快く了承し、爆発オチ怪談をしてくれる。怪談を聞くことそのものは、わたしも好きなのだ。

 

 

ポルターガイスト現象が起きるアパートがいきなり爆発したり、部屋に侵入してきた男が触ったであろうドアノブが爆発したり、百物語をしていた人たちの一人が話のラストでいきなり立ち上がって爆発したり。これまで様々な爆発オチ怪談を語ってもらった。どんな恐怖怪談でも爆発オチになると、その唐突さに笑えるので、わたしはなんとかここまでやれて来ている。とはいえ、オチる前の話はやはり怖く、いつも早く爆発してくれ…と祈りながらゾクゾクと話を聞いている。

 

先輩によって怪談の量をこなしているうちに、ある種のパターンを覚え、最近は謎の霊感が備わってきた。

夜、一人で帰ったりしていると「これは後ろ振り返ったら霊がいるパターン」エレベーターに乗ると「これは次の階のエレベーターホールに血まみれの女がこっちを睨んでくるパターン」と覚えたての怪談を自分の実生活に置き換えるようになってきてしまい、大変怖い。

 

「先輩のせいで逆説的霊感が備わっちゃって生活に支障きたすんですけどどうしてくれるつもりですか」とクレームをいれると「爆発オチにしたらいいじゃん」と言われた。仰るとおりだけれど、これじゃあわたしが爆発する可能性の方が高い。霊に襲われるのも嫌だけれどオチのたびに自分が爆発するのも勘弁してほしい。

 

「いいじゃん、霊感。備わったらさあ、話してよ。怪談聞きたいな」と先輩はのんきなことばかり言うので、いつか本物の霊感が備わって本気で怖い思いをしたら、登場人物を先輩に置き換えて爆発させてやろうと思う。

 

<にんげんの世なのでこんなに木がしろくたゆたゆたゆと揺れています>阿木津英