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ピロートーク

やがて性愛

本音までさらってくれてかまいません

きちんと会って話し合おう、だなんて話したいことあるのはそっちでしょ、お互いの問題みたいにして話を進めないでよ、と思ったけれど言葉を飲み込んで日時だけ確定させた。大体、「話したいことがある」という時に話す内容なんてろくなものでないという相場が決まっている。わたしの過去の経験からするに。

 


わたしは、話すのがとても下手で、友達に友達を紹介してもらった時に自己紹介をしたら言葉がたどたどしすぎて「アジア系の留学生の子?」と遠回しに聞かれたことがある。違います、生粋の日本人です、と答えました。答えた後に、“生粋の日本人”という単語って本当の生粋の日本人は使わなさそうだよなあと思ったけれど。それはまた別の話だから今は置いておく。

思っていたことを全部話そうとしたり、自分の中でしか筋道が通っていない話をするから、相手にとっては何を話しているのか分からなくなってしまうのだろうということまでは自分でもわかっているのだけれど、どうにも上手いことまとまりがつかない。
でも自覚があるから、初対面の人と話す際にとても気をつけている。余計なことは言わないように、筋道をたてて、相手によく伝わるように話すということはとても難しい。
親兄弟や昔からの馴染みの友人なんかには、ペラペラペラペラと好きなように話すのだけれど、これが通じているのはそれこそ昔からの馴染みだからに違いない。

 

話し合おう、と言われたからには相手は何かしら話したいことがあるのだろう。
わたしは何て返事をするのが最も効率よく(この場合の効率というのは“流暢か”よりも“効果的に自分の気持ちを伝えることができるか”という演出面が大きい。たとえば涙ぐむタイミングや「ごめん」を言う回数、別れ際の手の振り方など)対応できるかということを考える。

シミュレーションせずにはいられない。
待ち合わせ先から移動する際のことを考えて、靴はどうしようか上着は軽いものにしておこうか。
もしかしたら泣いてしまうかもだから、アイメイクは抑え目にしておくべきか。
わたしが泣いたらきっとあの人は頭を撫でるだろうから髪型はストレートヘアーにしておこうか。
「ごめん」って言われたら、何に謝っているのかきちんと確認して許すこと。
こちらから言いたいことは事前にまとめておいて、適切なタイミングで適当な抑揚で話すこと。
言い方としては「あの時言ってたことと違うじゃない」よりも「あれは嘘だったの?」と聞くこと。前者は責めているみたい。
話すのが下手だから、あらかじめ色々練っておかなければわたしは泣いているだけで時間は終わってしまうだろう。情けないけれど、そうするしか守る方法が思い浮かばない。それでも、泣くと分かっていながら会いに行くんだから、おそらく大馬鹿なのでしょう。


ただ一番の問題は、シミュレーションをしているうちに自分の本音や本当に言いたかったことが、それらしい言葉に置き換えられてしまうことだ。これが今後の課題。本当に、情けない。
でも本音を好きなように言ったらきっとうまくいかなくなるんだもん。でも、でも。こうしてまた言葉を飲み込む。


Xデーが迫っていて、ああ、もう。わたしは本音を飲み過ぎてお腹がいっぱいです。


<水蜜桃あふれてしまう本音までさらってくれてかまいません>田丸まひる