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ピロートーク

やがて性愛

これはせつなさ

愛だの恋だの

「ネコと犬ならどっちが好き?」
肉と魚、夏と冬、洋食と和食、きのことたけのこ…そんな二択チョイスを延々と続けていた。

ドライブデートの帰り道、運転席のその人を退屈させないためにわたしは思いついたことをしゃべっている。
こんな風に過ごせる一日は久しぶりだったから、互いに欲張ってしまい外は既に真っ暗になっていた。気を抜くとヒーターの音が響いてくる、そんな沈黙が怖くて。

 

それぞれの問いに、互いに答え合い、共感や反発をしてコメントを交わしながら車は走っていく。車種は忘れた。トヨタのシルバー。


一息をついてナビを見た。今、どこにいるの?わたし達、と聞くと「海の上」と答えられた。
うみのうえ。すごいね、海の上を進むとかキリストみたいだ。
わたしがそう言うといまいち伝わらなかったみたいで、曖昧な反応をされた。
(神話は苦手分野ってことね)と脳内メモをとる。

案内板に「海ほたる」という字が見えた。
「海ほたるに向かっているの?」
「そうだよ」
「わたし、海ほたるってよく知らないんだけれどなあに?地点の名前?ラインの名前?」
「点か線か、でいうと点かなあ」
「点と線ねえ 海に時刻表は、さすがにないか」
「時刻表?」
「あ、いやなんでもない」


(ミステリーものも、分野じゃないってことね)


「後輩が海ほたるで警備のバイトしてたって言ってたけど、フェリーみたいなもの?」
「ま、直に着くから想像していてご覧」


少しすると、要塞のような建物が見えてきた。「あれが海ほたる?」「そうだよ」「なんか、『ムー』って感じ」
「あ、それは分かるかも。照明を下から当てたらあれはかなりムーの本拠地って感じするよね」
今度は伝わった。そう思いながら車で乗りこんでいく。想像していた海ほたるとは全然違っていて、びっくりした。

車を降りてトイレ休憩。スタンドでコーヒーを買って、海の淀みと遠くの灯りを見ながら飲んだ。
飲み終わったからデッキに向かい散歩をした。風が強くて寒かった。マフラー持って来ればよかったなあと呟いたら、わたしの右半身に、あなたの左半身を寄せてきた。少しだけあたたかった。


心細さを感じた。
海の上にぽかんとあるパーキングエリア。
「海ほたるは、さみしいだろうね」と相手の服をつまんで言った。
「明るくて綺麗で楽しくて、それでもさみしい?」
「さみしいと思うよ」
右上から、顔を除きこまれた。
「まさか泣いてる?」「まさか泣いていない」「そか」「うん」、とそのとき口づけられた。
一瞬の口づけ。
「これでも、さみしい?」
「それでも」
「そか」


一本の道の上にある綺麗な要塞。海の上に浮かぶ明るい要塞。
要塞そっくりのパーキングエリア、その中にはレストランやお土産屋さんやカフェが入っていて通過点に人は立ち止まり寄っていく、そんな海ほたる。やっぱり、さみしいと思った。

わたしが海ほたるだったら、きっとつらかったと思う。


「海と山なら、どっちが好き?」風の音に掻き消されないよう、相手の耳元に口を寄せて尋ねた。
「俺は、実家がほらあっちだから」
「うん」
「海の方が好きだよ」

 

しばらくの沈黙。海の音が饒舌で今度は怖くなかった。
すると「行こうか」と、あっちが立ち上がる。
「今から帰れば渋滞巻き込まれずにすむよ」
「別に巻き込まれてもいいけど」
「うん」

イルミネーションを模した道を通りぬけ、エスカレーターを下って行った。駐車場は2階。
「さっさと帰ってセックスしよう」
「カーセックス?」
「うん」
「じゃあ、急いでね」


車のドアーを閉じ、横に並んだ。もう一度口づけて、海ほたるを後にした。

あんなデートをすることはもう無いんだろうと、今ならはっきりと分かる。

 

<せつなさと淋しさの違い問うきみに口づけをせりこれはせつなさ>田中章義