ピロートーク

やがて性愛

言葉交わせば傷つけあうしかない二人

次に付き合う人は、絶対にハードボイルドな男がいい。

無口で愛情の示し方がへたでもいい。わたしが2倍喋って2倍分かりやすく愛してみせる。
毎日連絡もくれなくていい。好きだなんて言ってくれなくていい。
電話やメールがなくてもいつものバーに行けばあなたに会えて、あなたの行こうとするところに勝手に着いていくことは許されている。涙を流すようなことが起きたとしても、泣いているわたしをあなたはトレンチコートの中に包んで抱きしめて、周囲の目から隠してくれるなら。そっちの方がいい。
彼はきっとiPhoneなんて持たないだろう。絶対に持たない。ましてや新型のモデルが出る度に買い換えたりなんてこと、絶対にしない。

 

それじゃあ今夜19時過ぎに、というLINEはお昼休み中に来た。
楽しみでしょうがなくて気合で定時で会社をあがり、待ち合わせの駅へ行く。
「ついたよ!」と鳥が笑っているスタンプを押す。既読がつかないので、パンダがじっとこっちを見てるスタンプを押して、反応を待った。
どうしたのかな仕事終わらないのかな何かあったのかな何かわたし怒らせるようなことしたかな。マイナス思考とプラス思考を交互に入れ替えながら待つも連絡はこない。帰ろうかとも思ったけれどなんだか惜しくて待ち続けてしまう。

一時間が経ち、近くのファーストフードに入ってドリンクを注文した。ここでフードを注文しないところがわたしの性格だと思う。この期に及んでわたしはまだ期待をしていた。
二時間以上経ち、空になったドリンクを前に、意地ではっていたらようやくLINE通知が鳴った。
要約すると「昼にiPhoneをどこかに落としてしまい探してて連絡とれなかった。やっと見つかった。本当にごめん。」というものだった。

 

あなたって人はスマホが無いとなにもできないのね、と毒を吐いた。


毒を吐いた自分に嫌気を感じながら涙目でハンバーガーを頼みに行き、物凄い速さで食べ終えた。わたしはお腹がすいていたのだ。
涙を拭って、駅へ向かい寄り道をしないで帰った。iPhoneがなければ何もできない男のことを憎みながら恋しく思いながら。

 


言葉なんて、たかが言葉だ。
みんなみんな言葉に力があると信じてそれに頼っているけれど、所詮言葉だ。
言葉だけじゃどうしても物足りなさを感じてしまうから、だからもう言葉を捨てたい。無口で武骨で愛なんて語らないハードボイルドな男と付き合いたい。そうしたらきっとわたしは今度はわがままに言葉を求めるだろうけれど、それでもいい。
いつもいつも新しいiPhoneを求めるような男は、言葉と同時に距離も贈ってくれる。
例えばあなたが明日不慮の事故で死んじゃったとしても、そのiPhoneが無かったらわたしは何も知らずにひたすらにLINEが来ないとあなたを待ち続けているのだろう。

iPhone、捨ててよ。せめて画面ロック解除して。それが無理ならハードボイルドにわたしを愛して。

 

<言葉交わせば傷つけあうしかない二人地下の茶房に向かい合いたり>道浦母都子