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ピロートーク

やがて性愛

誰かを愛した季節が終わる

考え事 思い出話

先月、親と伊勢旅行をした際にお土産物屋でお土産用ストラップを買ったら、レシートには携帯ストラップ、と記されていた。
携帯ストラップ、なんだか懐かしい響きに感じた。

スマホを持ち始めてから数年が過ぎて、いつのまにか“携帯電話”を持っていた時間を超していた。
そのうちにストラップらしいものを付けていたのなんて、本当にわずかの間だったなあと思う。

スマホにしてからは一度しかその類のものはつけていない。あまりにも可愛くて買ってしまったパンダのキャラクターもので、
それもつけているうちにチェーンの部分が壊れてしまったので外してしまった。半年に満たない間しかつけてあげることが
できなかったから、あのパンダには悪いことをした気がする。

 

 

伊勢旅行では、伊勢参りをし、赤福を食べて、夫婦岩を見た。
鳥羽の真珠関連のお土産物屋をひやかしていたら、わたしがかつてつけていたストラップが売られていた。

銀の華奢なチェーンに白いパールが連なっていて、それはきらきらと輝いてて、
わたしはあまりに驚いてしまいしばらく固まってしまった。

 

それを贈ってくれたのは最初の彼氏だった。
付き合ってすぐの何でも無い日にそれをプレゼントしてもらい、わたしは喜び、でもなんでくれるの?と聞いた。
まだ高校生だった頃の、わたし。

彼も高校生だったから、臆面もなく恥ずかしいことを言えた。
言っていたことは一言一句間違いなくここに記せるけれど、それでは彼があまりにも不憫なので
超簡単に言うと、

家族との旅行先で買ったもので、いつか彼女が出来たらプレゼントするつもりだった、ちょっとイイものだそうだ。
それで、彼女ができたからわたしにくれると言った。

嬉しくて嬉しくて、その後携帯電話を買い替えるときは、そのストラップが似合うような白い携帯に合わせたほどだった。

 

でもそのストラップはふとした拍子に壊れてしまい、外さざるを得なくなった。
いつしかその彼氏とも別れた。そしてわたしはスマホを持ち始め、こうしてストラップと久しぶりの再会を果たしていた。

家族旅行って、伊勢だったんだなあと思った。
もう会うことは絶対に無いだろうし、へんな感傷的な気分にはならない。
ただ、3千円、という値段の具体さが心をしらしらさせた。値段そのものよりも、知ってしまった、ということが
心に圧し掛かってきた。ごめん、わたしはあの頃本当にあなたが好きだったんだよ、と今さらな気持になった。

買おうかな、と思い、手にとってみると携帯ストラップ独特のあの縦長に配置されるアンバランスさが掌に感じられて、
思わず手を放した。買うのは、やめておこう。今さらになっちゃうし、旅先のセンチメンタリズムに負けるみたいで、かっこ悪い。
壊れちゃったストラップは、あの頃たしか小物入れにいれていた。
別れた後、小物入れを開けるたびに目につくのがしんどくて、宝物入れという名のお菓子の缶に入れたことを思い出した。

家に帰ったら、久しぶりに宝物入れを空けてみよう。
わたしにはあれがあるから新しいものは必要ないよね、そう思い、電車に数時間ゆられ、家につく。

宝物入れをクロゼットから取り出し、あけてみた。
あのストラップはそこには無かった。

少しほっとした自分がいて、そんな自分になぜか安心をした。
これで良かったんだと思う。そう思えて、今のわたしは、とてもしあわせだ。

<雲に手を伸ばしてみたりわけもなく誰かを愛した季節が終わる>佐藤りえ