読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ピロートーク

やがて性愛

一瞬ひとはつむいて

日常

皆が憎んでいるほど雨のことは嫌いじゃなかった。雨を見ているとなんだか誰かを許したくなるような、全てを包み込んであげたくなるような、諦めにも近いような、そんな穏やかな心もちになる。
もちろんレジャーの日や、よりによって!というときに雨が降られると、悪口でも言いたくなる。雨マジウザい。ちょームカつく。ほんとだるいよね。

皆で飲んで喋って過ごす、金曜日。朝のニュースでは関東地方に秋雨前線がやってきております、というようなことをお姉さんが言っていた気がした。夕方から翌日朝にかけて東京では雨の模様です、お出かけの際には傘を持つといいでしょう。
お酒がまわってきたところで時計を見ると、時間が迫っていたから、それじゃあわたしこのへんで、とお先に失礼しようとする。
だいじょーぶー?酔ってんじゃなーい?
えー帰っちゃうのーまだまだじゃーん
家遠いんだっけ何線―?
ざわりとした声が交わされていて、悪い気はしない。わたし、家遠いんですよおそれに明日用事あるんですと挨拶をする。酔っていると自分の声のボリュームがうまく調節できなくて、思いのほか大きな声が出てしまったり小さな声で話していたりするから注意深くあらなければならない。
俺も明日仕事なんだわー帰るー と、仲間うちの一人が立ち上がる。駅まで一緒に行こうね。


お店を出るとまだ雨が降っていた。あめー。わたしは傘を畳むのが下手なので出来ることなら傘をひらかないようにしたい。要するに、少しぐらいの雨なら濡れてしまったほうが楽だと思っている。
「俺さあ基本傘ささないんだよね」とあちらさんは言った。さっきまで座っていたから気づかなかったけれど、結構背が高いんだなあと思った。背が高い人は好きだな、かっこいい。
「わたしもですよ、めんどうくさくって」
そう返事をした。降っている雨はなかなか強くて、とは言っても、という状況だった。朝方、親に持たされた傘をひらこうとすると、あちらさんは立ち尽くしていた。
まさか傘無い?と聞くと頷かれる。だから俺、基本持ち歩かないんだよ。なんだかかわいそうなのか可愛いのか分からない不思議な気持ちになり「今日は、さそうね」と入れてあげることになった。
「いやあ今日は楽しかったな」「本当に」「君とも喋れたし」「ちゃんと話したのは初めてかもしれませんね」と定型文の会話をする。
「明日用事あるの?なんならこのままホテル行っちゃう?」と言われたから「明日はデートなので察してくださーい」と笑ってお断りした。」相合傘をするのは久しぶりで、酔っていて、なんだか面白かった。


駅へと向かう間もわたしが傘を持っていた。背が高いから正直腕がしんどい。ていうかこういうときって男の人が傘持ってくれるもんなのでは?そう思ったけれど、なるほど本当に傘持つ習慣がない人なんだなあと謎の説得力を感じた。
こいつは、大物になるだろうなと思う。ためしに立ち止まってみると、あちらさんはそのまま歩き続けた。
本当に、濡れることを恐れない人なんだなあとしみじみ。こいつは、カッコいい。こういう本物のエネルギーを持った人に、わたしは弱い。男であれ女であれくらくらする。でもぶっ飛ばしたい。でも。

 

雨に免じて許してあげちゃうんだから、そう思い、濡れたまま進むその人へ小走りをして傘に入れてあげた。
秋は季節の中で一番好きだよ。だから秋を連れてきてくれる秋雨前線も好きなの。雨が降るとね、誰かを許したくなるような、全てを包み込んであげたくなるような、そんな優しい穏やかな気持ちに、私はなるけれど。あなたはどう思う?

<傘をさす一瞬ひとはつむいて雪にあかるき街へ出でゆく>藪内亮輔