ピロートーク

やがて性愛

君のまつすぐな愛

離任式にI先生が来るとは思わなかった。
女子高生たちはきゃあきゃあ驚きと喜びが混じった声でざわめいていると、檀上に立ったI先生はあいかわらずのぼそぼそした声で話し始めた。
「もう一度会いたい、と思えるような女性になりなさい」

「そう思ったから僕もこの式に参加したんです」

 

「とでも言えば皆さん満足でしょうか」と言葉は続いた。
先生は、本当にあいかわらずだった。
(ちくしょう!)
(無論我々は笑った)

 

あの離任式から数年が経ったけれど、自分そう思ってもらえる人になれているかしらと時々不安になる。
そして「今度また会おう」と言いつつも2回目が消えうせた人たちを思い出す。
わたしの話つまんなかったかなあ…それとも美人でないからとか…ノリがもっと良ければ変わったかなあ…
そんな自己反省会したところで修正は効かないし、そもそも正解が分からないからほとんど意味がない。


ただ「また会いたい」と思ってもらうのは別れたあとの話だけれど、出会ってすぐ直感でなんとか思われるパターンも絶対にあると思う。


具体的に言うと「ヤりたい」みたいな。

 

直感で良いなと思う人がいるのはよく分かるし、その矛先がセックスというのも別に有りでしょう。
それ以外にも一緒にケーキバイキング行きたいとか手つないでみたいなとか、自分を両親に紹介している姿を見てみたいとか、ちがうタイプの具体的な欲望が湧くのも、有り。
ただどうしても、前者のような、性にまつわるエトセトラな欲望を持つのは男性の仕事になっているイメージが強い。
そんなのってずるい。女だって、わたしだって、わたしだって思うやい。


ヤりたい、とか直感で思うような人にまだであったことないからかもしれないけれど、わたしの場合は、帰り道で手をつないできてほしいなあ、とか飲みの席でわたしがトイレに立ったのと同時についてきて抜け出しちゃわない?って誘ってほしいとかある意味具体的で即物的な欲望を抱いてしまう。
空想家とか夢見がちとか言われたらとても否定できない。
でも言われっぱなしは悔しいからジョンレノンのあの曲をちょっとここに置いておくね。
You may say I'm dreamer, But I'm not the only one,
I hope someday you'll join us And the world will be one.

あくまでも空想家に過ぎない自分が少し悲しい。
基本的にシャイなので、口にしたり行動に出るなんてまねなんてとてもできないという大前提がある。
そのうえ、わりと常識人なので、実際に前述したようにお誘いを受けても「いやいやいやわたし付き合っている人いるから!!!」とか「そんな抜け出すとかみんなに迷惑かけるしまだ幹事へ飲み代払ってないし!」とかテンパりながらすごくつまらない反応をするところが容易に想像できる。悲しい。

ツイッターでこの前、某ロックフェス3日間で5人とセックスした^^と女性が呟いて炎上していたけれど、正直「いいなあ~~~~!」と思った。
3日間で5人とできることではない。異性と関係を築けるコミュ力があることでもない。
(したい!)と思った人に対して素直に動けている部分のこと。

 

念のために言うけれど「ヤりたいと思われたい」わけではない。
そうじゃなくて、もし自分がヤりたいと思える人に出会ったらその欲望に忠実に動けるようになりたい。
どうしても、わたしは女だから構図的に抱かれる側に立ってしまうんだけれど、抱かれながらにして自分の意志と体で抱きたいと思った。


「もう一度会いたい」と思える人に、心底なりたい。
でも、そんなこと考えながら行動するのはやめにする。
そう思われる人になるよりも、自分が会いたいと思った人に対して素直に「会いましょう」と言える人になりたい。

それができたら「もう一度会いたい」と思ってもらえるすてきな自分像はきっと後ろからついてくるはず。
これまで幾度も殺してきたときめきや感動をそのままに、後悔のない自分になれるはず。


<なにもかも言葉で告げて来る君のまつすぐな愛わかる いまなら>松本典子