ピロートーク

やがて性愛

だからそれだけのこと

前文を省略して話すと、俳優業で生計をたてている人と仲良くなった。
芸能のことはよく分からないけれど夏に全国公開される映画に出るとか、なんとかのCMではモデルもやったとか。へえー、と飲みながら話していて、やはり映画が大好きなようで、相当詳しい様子。
わたしといったら映画も全然知らないので(スターウォーズもターミネーターも見たことないし、映画館ではしょっちゅう寝てしまう。“シュワちゃん”の顔も出てこないし、俳優のシュワちゃんと政治家のシュワちゃんは別物だと最近まで思っていた)(日本映画、監督、役者等も然り)ただ、話を聞いて分からないことは質問したり、相槌を打つぐらいしかできなかったんだけれど。
話をしていて分かったことは、アクションや悪役をやることが多いらしいこと。ホラーなんかも大好きらしいこと。なるほど、張りがあってよく通る良い声、高い背、ハンサムというわけではないけれど何にでもなれそうな顔立ち。映画や舞台だと活躍できそうだなあと思っていた。腕も太い。がっしりしていると言えばいいのか。


(悪く、ないな)


よく話してよく飲んで、あっけらかんとした感じで、ザ・文化系のわたしとしては「クラスが一緒でもほとんど話したことなかったようなタイプ」の男性なんだけれど、なんか嫌いになることはできなかった。

 

 


それでいて、また内容を中略させて話すと、抱きしめられて、その後。
「こんなはずじゃなかったんだ」「なにが?」「駅まで送るつもりだったんだよ」「何を、今更」「大丈夫だった?」「気にしてないですよ、やっぱり、お酒のせい?」「お酒もあると思うけれど、それよりなんか好きになっちゃって」
「お上手ねえ」そうやって笑ってやった。
外からは入ったばかりの梅雨時の雨の音が聞こえる。

川になりながら話している、二人。
「俺さ」
「うん」
「頑張って、もっと売れるからね」

 


何を言うかと思ったら、この発言だったのでとても驚いた。
「えっ」

「わたし別にそういうの望んでないですよ」
「でも。やっぱりさ」

いわゆるギョーカイ人とお近づきになりたくてしょうがない女の子ってのは絶対に一定数いるだろうけれど、わたしもその一人とか思われるのだったら、それは凄く嫌だった。
「別に売れてるとかどうかそういうの気にしないし」
「なんていうか、わたし」


「わたし、Mさんが銀行員だったとしても好き」


なぜかあっちは微笑。
なんていえば良いのか分からなかったけれど、本当に良い意味でどうでもよかったのだ。
「ありがとうね」
「うん」
「最後まで、見届けたいんだよね。結婚するときは呼んでよ。それで、そのとき俺が売れていた方がいいじゃん」
「ストーリー的には、盛り上がるところですよね」
「でしょ。ウエディングドレス着てるところ見たいんだ」
「分かった。そこそこに応援します。わたしも頑張る」
川のまま眠る、二人。

ふと目覚めたらもう始発は動いている時間で外が明るい。
Mさんといったらぐうぐうと無防備に眠っている(わたしに財布から金抜き取られるとか1ミリも思わないのかしら???)から、着替えて、「ぐっすり寝ているようなのでそのままにしました、お先に~」的な書置きをして部屋を出た。
昨夜降っていた雨はもうすっかり止んでいて、歌舞伎町は、一仕事終えた人たちで既に、にぎわっていた。
そういえばMさん、家に連絡入れてないけれど大丈夫なのかしら。奥さん、何とも言わないのかしら。
罪悪感は、無い。
(そういえば、ジューン・ブライドなんて言葉があったよな)と新宿駅で思い出して。
いやに、清々した朝だった。


<二つのものは一つになれない永遠に だからそれだけのこと セックス>斉藤光悦