ピロートーク

やがて性愛

花にある水のあかるさ

はじめてはいつも緊張して楽しくて悲しい、

 

 


ことが多い気がする。
あくまでも気に過ぎないのだけれど。

こんばんは、お久しぶりに書かせてもらいます。

 

2014年ももう終わり、わたしは来年には社会人になります。
自分のありとあらゆる初体験をみずみずしい感性でなんて書ける年齢ではもうなくなり(今、22歳です)これまで経験してきたことをカードの持ち札にして改めてゲームに向かう年齢になってきたなと、最近つくづく思います。

わたしはファーストキスの甘い思い出を詩や歌になんてできないし
初めて男の子に触れられた帰り道のような、切なくて苦い心にはもう二度となれない。
だからこそ新たな刺激やそれを与えてくれる人を求めたり、まだ何も経験していない無垢なものを疎んだりするのだろうけれど、それってなんて身勝手で自分本位な考え方なんだろう。

 

いつかは言わないけれど、前に、男の人と夕食をとりに行きました。
その人とは連絡はしょっちゅうとりあっていたけれど二人で会うのはその時が初めてで、楽しく食事を済ませる。少し散歩をし、おしゃべりをし、手を握られ、髪をなでられ、うっとりとした心地。
髪をなでられるのは好きだな、気持ちがいいな、と思っていると「今晩帰らなきゃならないの」と聞かれる。
わたしに触れている相手の体の温度から、なんとなくそういった気持ちになっているのは感づいていたけれど、そうかやっぱり言われるかあれわたし今日下着何色だっけ明日の予定ってどんなだったっけ、と現実が頭をよぎる。

この人とそういう関係になったら、これからわたしどうなるのかな
あとあと面倒くさいかな それともポイと捨てられるかな どうなるんだろう
現在の状況に思考も判断力も追いつかないし、追いつこうとするやる気すら起きないし、ましてや過去のことやこれからの未来のことなんてとても考える気にならなくて
それなのに頭の中にはっきりと「この人についていってみたいな」という思いが浮かんでいることだけは自分でもわかり
わざと曖昧な返事をして、手を引かれ、いわゆる“そういう宿”に入っていく。


休日前だからか待合室を兼ねたロビーに人がたくさんいて、その中でも隅っこの、ほかの人たちから離れた籐の椅子のようなものに並んで座っていた。
何を話したか、全然覚えていない。
なんだかぼんやりとしてしまって、相手に合わせており
彼もわたしの反応に気づいているのか口数が減っていく。
そのうち、彼が持っていたブザーのようなものが鳴った。
フロントから部屋の鍵を受け取りに行くのだろう、彼が立ち上がる。
「ここに座って待っていてね、すぐ戻るからね」と言い、去っていく。

 

今さらどこかになんて行くわけないじゃない
もうここが「どこか」なんだよ
行けるところなんか今のわたしにはないんだよ


そんな悪態づいたことを考えながら、彼の後姿なんて目で追わずに、周囲のインテリアを眺めていると、ちょうど自分が座っている真後ろに水瓶?壺?があるのに気付いた。

大きな重たそうな水瓶に水が張ってあり、その上に開ききったブーゲンビリアの花が浮かんでいる。それらを照らすように、水の中からライトがついて花を印象づけている。
南国風な雰囲気で、いかにもって感じで、でも綺麗で。綺麗で。

 


花にある水のあかるさ水にある花のあかるさともにゆらぎて/佐藤佐太郎

 

手帳に書き留めていたこの短歌をふと思い出した。
そうか こういうことか、と思った。
揺らいでいるのかな、わたし。ここまで来て  とも思った。
まあ、揺らいでいないといったら嘘だったと思うけれど。

水に指を浸けてみると、水面が揺れる
すると 花も揺れる
下からのライトは変わらず照らし続ける


「ともにゆらぎて」 

口に呟いてみると、「ともに」という部分が、なんとも切なくて頼りない。だからこそ淋しくない強さがある。
どうにでも なっちまえ くそくらえだ やってやるよ
そんなふうに思いかけたとき、彼がルームキーを戻ってやってきた。

大丈夫だった? 行こうか 荷物へいき?
わたしを心配する言葉をぽんぽんと投げかけてくるから、「平気」と返した。そして手をひっぱられるがままに部屋へ入っていった。

 

その一晩はたのしく過ごし、ポイ捨てされることもなくその後も過ごせている。


揺らぐってたのしい。
それはわたしの根幹がもう育っているからこそだと思う。
揺らげるほどに大人になったよ、わたし。
初めての体験なんてもうほとんど無いけれど、過去と比較しては揺らいだりためらったりミスを楽しめるぐらいには、なれたよ。
これは、大きな収穫である。
そう自分だけでも信じていたい。