ピロートーク

やがて性愛

君という素直な幹を愛しつつ

初恋は近所の幼なじみの男の子で、小学生高学年のときだった。
その男の子の母親とわたしの母親は仲が良く、今でも時々ランチしたりしている。
母がランチから帰って来ては、その男の子の現在の話を聞いて、想像するのがとても楽しい。

もちろん、彼は今はただの男友達の一人で、恋愛感情があるわけではないけれど、母づてで聞く、彼の話は、なんだか初恋の頃のときめきを感じる。

わたし「ねえ、○○君の話した?なんか変わったとか言ってた?」

母「話したよ、ほらこの前セブンイレブンでおにぎり100円セールやってたじゃない」

わたし「?やってたけれどそれがどうしたの?」


母が言うことによると

○○君のお母さんが、出掛けることになったので食事代として○○君にお金を渡して言った。
「近くのセブンイレブンでおにぎりのセールやってるし、おなかがすいたらこのお金で買って、適当に食べておきなさい」
(まあ、ここまではよくある話だ)

そうして○○君のお母さんは出掛け、数時間後に帰ってきたが○○君の気配がない。
心配して、○○君の部屋に入ってみると、そこには床に彼一人の一食分では食べきることができない量のおにぎりを散らばせて、その中で寝ている○○君が居たのだ。

息子が、おにぎりの海の中で寝ている姿を見て、○○君のお母さんは嘆いた、という話を聞いた。
笑い話なんだろうけれど、わたしの心はより一層ときめいた。


たくさんのおにぎりの中で眠る彼。

あああなたはお母さんから渡されたお金を握ってコンビニに行き、おいしそうなおにぎりを、手当たり次第、何も何も考えずに、買い物カゴにいれたのね。
そして部屋に戻って、自分が満足するだけ食べたら、何も何も考えずに、片付けもせずにそのまま眠ることができるのね。

凄い人だ、美しい人だと思った。
その光景も想像するとなんて綺麗なのだろう。人間が生きるってそういうことなんだとも思える。
わたしにはできないだろうな。
わたしだったら、おにぎりは二個で抑えて余ったお金でデザートも買っちゃおうとか、部屋で食べたら片付けようとか細々考えてしまうと思う。
でも彼は違う、自分が考えたことをそのまま素直にできるんだと思い知らされた。


小学生の頃のわたしの目に、狂いはなかった。
わたしはきっと彼のそういうところに憧れて好きになったんだろうなと思った。


食べきることができない量の、おにぎりの中ですやすやと眠る彼は、わたしの中で美しい絵画になる。


〈君という素直な幹を愛しつつ曲がれよ曲がれ天のわが枝〉飯沼鮎子