午後の光のただ中にゐる
お盆の時期は実家にも帰らず、介護の実習として、特別養護老人ホームにせっせと通ってた。
実習の内容は、利用者のおじいちゃんおばあちゃんとおしゃべりをしたり、車椅子を押したり、一緒にお歌をうたったり、雑用(掃除洗濯等)をしたんだけれど実習の五日間のうちの一日で、介護用のベッドメーキングを習い、フロアーのシーツ替えとベッドメーキングをするように頼まれた。
そしてわたしと同じく実習としてその施設に来ている男の子のM君と、二人で、たくさんのベッドメーキングをした。
二人で、真白なシーツを両端ずつ持って、はたはたとひらめかせている。
何度も何度も、繰り返し。
二人で張ったシーツはしわが寄ることなくぱりっとしていた。
わたしは、そのお相手のM君のことはちっとも好きではないし、一生恋の相手になることはないだろう。
それは、お互いに。
だけれど、今二人でシーツをたくさんたくさんはためかせて、たくさんたくさんベッドメーキングしたこの現実は、確証のある思い出になると思った。
今後、わたしもM君も、好きな人と共に過ごした夜明けに二人でシーツのよれを直す日が来るかもしれない。
そのとき、わたしもM君も、今日の経験を少しぐらいは思い出すのかもしれない。
シーツは、白かった。
わたしたちはあまり会話せずに、ひたすらシーツを取り替えた。
いつか誰かと(好きな人だといいな)二人で目覚めた朝に今日の日を思い出すのかもしれない。
わたしも、M君も。
そのときわたしもM君も、たぶん人生の横軸で接点はないだろうから本当にあの瞬間だけが思い出になった。
きれいな、良いシーンだった。
他のことは、何も言えない。
〈午後の光のただ中にゐる永遠がほんの一瞬虹のくれなゐ〉尾崎まゆみ