ピロートーク

やがて性愛

赫き赫きマニキュアをぬる

身の程を知っているから、顔とかスタイルとかそういうのは、アイドルや女優さんみたいにきれいになれないって分かってる。

でも、しぐさやふとした表情や言葉づかい、服装や持ち物といったところでなら努力次第ではかわいくなれるなあと気づき、そこそこ気にはしている。(限界はあるけれど)


雰囲気だけでもほめられるのはうれしいし認めてもらえると幸せな気持ちになる。
できる限りのことは頑張ろうと思って毎日を過ごしていたら、昨晩のテレビに栄養ドリンクかなんかのコマーシャルで、芹那さんを見た。

芹那さんのことはあまり詳しくないけれど、正直言ってあの鼻にかかったような声が苦手だった。でも美人だと思ってた。
正確には「声さえフツーにしてたら本当に美人なのにね~」という、弱点すらも武器になるような、美人さが憎かったんだと思う。

コマーシャルの中で、露出をしながらも品がなくならないような涼しげな格好、すらりと伸びた長い手足、整った顔立ちの芹那さんが、竹刀か何かで男の人を叩き、やる気を注入!栄養ドリンク!(?)みたいに宣伝をする。

 

あー、もう、勝てないなあとつくづく思った。
わたしの小手先の"カワイイ"なんて、偽物にすぎない。どう頑張ったところでわたしは雰囲気イケメンならぬ、"雰囲気カワイイ"なんだなあ。

芹那さんの声はモテ声なのか全然わかんないけれど、わたしがあの声だったらきっとだめだった。あの声は完全な美人の芹那さんだから許されるんだろうなあ。

長澤まさみにも同じような敗北感をいつも感じる。
この人には勝てない、わたしがいくらお金をかけてかわいく装っても勝てない、そう思う。

絶望と呼ぶには情けなさすぎる、絶望。
それでも、わたしが戦うためには、別のフィールドで、地道にやっていくしかないのだと、改めて思うのだ。

 

きれいに、とびきり、きれいになりたいなあ。
そしたら毎日ハイヒールはいて、ショートパンツやミニスカートで、おしゃれな街を闊歩しながら、道行く人たちの視線を眩しいほど浴びるんだ。


〈うつくしきものなべて無意味と断じつつ赫き赫きマニキュアをぬる〉橘夏生