かささぎの橋の架くる夜もすがら
幼稚園児の頃、七夕の笹飾りにシンデレラになりたいと書いた。
白雪姫にするか迷ったけれど、白雪姫は一度死んでしまうのが怖くてやめた。
死んじゃうくらいなら、ちょっと継母たちにいじめられてもお姫さまになれる方が良かった。
小学生の頃、なりたいものはたくさんあった。
美容室で切られた髪を大きなほうきで掃除するアシスタントのお姉さん、キオスクの中の人、スーパーのレジ打ちの人から、漫画家やデザイナーにも憧れた。
中高生の頃、何になりたいのか分からなくなった。
ただ、本を読んだり、絵を描いたり、作文を書くことは好きだった。
なんでどんどんダメになるのかな分からなくなってくるのかな。大人になってきてるのに。
憧れを現実にする方法を知っているのに。
最初になりたかったシンデレラを思い出す。
きっと、わたしは、王子さまに、たった一人のわたしを、たくさんのおめかしをした娘たちがいる舞踏会の会場から見つけ出してほしいのだと思う。
めかしこんだたくさんの娘たち。
娘たちはみんな王子さまに選んでほしくてそわそわしている。
その中の一人のわたしに目がとまり、ダンスを申し込まれて、二人は恋におちる。
魔法がきれて、姿をくらましても、探し出してほしい。諦めないで、わたしはここにいるから。見つけ出して、欲しがって。
20才のわたしが今何もできないのは、きっと、みすぼらしい姿のわたしを変えてくれる魔法使いのおばさんをまだ待ってるからだろうなあ。
当たり前だけれど、待ってちゃだめなんだろうなあ。
今年の七夕がおわって約2週間。
シンデレラになりたいと書いた七夕がおわってからは早15年。
夢は空の彼方、何光年も先にまだ光っているような気持ち。
ああ、恋人の、お嫁さんにだけなりたい。
〈かささぎの橋の架くる夜もすがらひねもす二人きりで生きたし〉藤室苑子