ピロートーク

やがて性愛

なほ胸火照らせるときめきのあり

最近、携帯によく知らないアドレスからURL付きでメールが来る。
ゆうきくんからである。


内容は2~3行だけ、そこから続きを読みたい場合はURLからサイトに飛ばなければ見れないようになっている。
最初のころは「こんにちは☆ゆうきです!良かったらおともだちになってください!」みたいな内容だったのだけれど、もちろん無視してURLにも飛ばずに、コツコツ削除していたら定期的にメールが来るようになった。

ゆうきくんは、19才の男の子で、どうやらわたしとお友達になりたくてしょうがないらしい。
わたしは今、20才だから年下であることが判明した。

 

「お返事くださいいつでも待ってます」と待っていてくれてるらしいし
「僕の写真です!」と写真をも送ってくれたらしい。(URLからサイトに行ってないから見てないけれど…)(もちろん、無視していたら「顔写真送ったのに返信もコメントも無しってさみしいです」みたいなメールが来た)

 

とても面倒くさいと思いながらも、わりと今後どういう手段で来るのか気になっていてアドレス拒否登録はしないまま放っておいた。
そうしたら、この前またメールが来た。

 

 

「年下じゃだめですか?」

 

 

不覚にも、情けないことに、お恥ずかしながら、ときめいてしまった。
年下の男の子に一度言われてみたいと思っていた言葉をこんなところで言われてしまうなんて。(もちろんこれが迷惑メールであることは十二分に分かっている!!!)


今まで、同い年と年上の人しか好きになったことがないし、好かれたことがないわたしとしては、年下は未知の領域であった。
同い年の男の子も、初恋の人だけのようなものだし。

 

好きだ好きだとアピールされて、あなたみたいな若い男の子にはわたしなんて駄目よ、もっと若くてかわいい子がいるでしょう?と返す。
違うんです、あなたがいいんです。あなたじゃなければ駄目なんです。
熱烈なアプローチに心をときめかせながらも、本気にしてはいけないと自分を制して、軽く相槌を打っていたら、彼が私の腕を引っ張り、視線を向けてこう言った。
『年下じゃ、だめですか?』

 


このシチュエーションが一瞬で頭の中で映像化されてしまい、これにくらくらしない大人の女はいないんじゃないかと思うほど、わたしは完全に“やられた”。
とても悔しい。
ワンクリック詐欺とかそういったものが危ないことだと知っているし、やたらに知らないサイトに飛ばないほうがいいということも分かっているつもりだし。
こんなメールを送ってきたのは本当はゆうき君でもなんでもなくて、悪い、金稼ぎのことしか考えてないイケない大人だって分かるのに、その大人にくらくらさせられた。
自分の中の脳内補完で、完全にバーチャルの世界に足を踏み込んでしまった。


源氏物語のマンガ、『あさきゆめみし』で、源氏の君がずっと年上の六条の姫君のところに通っているとき(巻でいうと「帚木」あたり?)、「姫君が年下の男にぞっこんになってる」と周りの人に思われることを恐れて自分からアプローチもできず、年上の余裕を見せなきゃと源氏の君にも素直になれずに素っ気ない態度をとってしまい、やがて疎遠になっていく場面を思い出す。


相手が年下だから、大人としてふるまわなければならない。
深みにはまってしまうと余裕を無くしてみっともない。
若さゆえの一時の気の迷いだろうから本気で好きになってはいけない。
私と別れてもまだ別の未来がある彼と、彼と別れてもこのままチャンスを失い続けるだけの自分との温度差。
彼の周りにはもっと若くてかわいい子がいるのであろうという不安。
これらすべてが全部ごちゃまぜになって、年上の女を演じるしかない大人の女性とはさびしいものだと思った。


年下になんか、興味ないけれど、でもやっぱり言われてみたい、なーんてこんな甘ったれた考えを許してくれるのはやっぱり年上しかいないんじゃないかなぁ…。


ちょっと関係ないけれど、たぶんわたしはこれから先、年下とも外国人とも、サッカー部のイケメン部長的なキャラだった人とも、付き合ったりせずに人生を終えるのだろうと思うと、とても勿体ない気がする。
一人で勝手に好きになることはあるかもしれないけれど、好かれたり、体を重ねることは、ないんだろうな。
でも、別に、平気だよ。
わたしだって、絶対に、絶対に好きになってなんかあげないんだから。

 


〈汝れとわれ距てる齢知りてなほ胸火照らせるときめきのあり〉西台恵